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『東大英単』(東京大学教養学部英語部会/東京大学出版会)

『東大英単』(東京大学教養学部英語部会/東京大学出版会)

~「これは受験参考書ではありません。」(本書プロローグより)~

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対象:英語が得点源に(現時点で)なっている人、英語にかかわること多い学部学科に進む人

キーワード:英単語、教養

 東京大学を志望している者なら誰もが一度は手に取ってみたくなる本書。
(筆者自身、高校二年生の夏くらいに何も考えず購入した記憶があります)
何故、手に取ってみたくなるか。
それは、署名もさることながら、本書の序文に反してしばしば、受験参考書コーナーにあるからでもあります。

はっきり言って良書です。
では、どのような内容になっているのでしょうか。

 

【本書の特徴】


まず単語一つにつき、幅広いジャンルからの例文・訳語を紹介するだけに留まらない、概念的な説明・(単語帳としてみたときに)充実した演習、といったほかの単語帳にはない贅沢なページの割り振りがされています。

次に、豊富なコラムも見逃せません。
「主張の濃淡」、「主語と動詞の相性」、「言語使用域と語彙」...

どれも英語が多少なりとも好きなら目を通したくなってしまうトピックばかりです。
(そして実際に面白い!!)

さて、そんな本書ですが、落とし穴があります。
冒頭の通り、「これは受験参考書ではありません」。

「それって難しすぎるってこと?」「でも、扱っているのは英単語なんだから受験参考書には変わりないでしょ?」
といった疑問が聞こえてくる気がしますが、どちらの質問も半分正解だが、正確ではない、といった感じです。

【受験参考書としての評価】

まず前者について、この参考書の中に収録されている単語はそもそもあまり難しくありません。


と、言うよりこれから大学に入る方に強調しておきたいのは、


英単語で難しい単語と、大学や研究で使うような専門用語の単語の難しさとは全く別の難しさです

ですから、大学に入って突然語彙が「英単語として」難しくなることはあまりありません。

日本語で考えてみましょう。
例えば物理学の難しい議論をする際に、知らない用語がたくさん出てきたとします。
もちろん専門外の人にはちんぷんかんぷんでしょうが、その専門用語を除いた文章を考えてみると案外平易な文章だったりします。

一方で、漢検一級に出てくるような難解・難読な漢字や熟語ばかり使われた文章は、少なくとも日常会話では分かりにくい文章になってしまうでしょう。

このように大学レベルになったからといって、話を構成している単語はほとんど難しい語彙にはなりません。注目すべき単語が専門用語になっただけです。

英単語でもその構図は変わりません。
ですから、この単語帳に載っている単語も難しいものは特にありません。

一方でよく見る単語が簡単であるという話にもなりません。
例えばshouldという中学生でも知っている単語、これを辞書で調べた方はどれくらいおりますでしょうか?
実際は、複雑で多義的なshouldですが、ここまで頻出する単語だと腰を据えて調べるという気にはならないと思います。
『東大英単』はどちらかと言えば、このような簡単(に見える)であろう英単語の隠された広がりを確認させてくれる本になります。

さて、話が脱線してしまいましたが、本書は単語の難しさで言えば、そこまでではないが、簡単に見える単語の語義の広がりを教えてくれるものとなっています。

では、第二に「受験参考書」ではあるのだろう?という疑問に関してです。
確かに英単語は重要なものを扱っていますし、前述のとおり質も高いですが、

この本は東京大学教養学部の学内教科書の副読本として読まれた際に100%の力を発揮するように作成されています。

 

故に、本書は確実に良書なのですが、受験参考書としての評価を端的に言えば、
一冊目の単語帳としては使えず、限られた受験勉強の中で、通るべきルートとしては些か寄り道すぎる。
といった立ち位置になってしまう本と言えるでしょう。

【総評】

本書を手に取ってしまって、購入してしまったあなた、全く悪い買い物ではありません。
"Elementary, my dear Watson."が「そんなのは初歩だよ、ワトソン君」と訳されているのを見ると心が躍ってしまうでしょう。
逆に言えば、高尚な勉強を「やっている感」がどうしても出てしまう本書は、受験参考書としてではなく、知的な息抜きとして使ってみることをオススメします。

 

東大英単

東大英単

 

 

文責:注b