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『ドラゴン・イングリッシュ 基本英文100』(竹岡広信/講談社)

『ドラゴン・イングリッシュ 基本英文100』(竹岡広信/講談社)

 

~「ある状況に対して最低限ひとつの表現が必ずできるようにすること」(p. 4~5)~

 

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対象:英作文対策を初めて行う受験生、高1~高3

 

キーワード:英作文

 

 

 

【「はじめに」を読もう】

 

言わずと知れた英作文の定番書。
英作文参考書としての魅力を伝える前に、一つ強調しておきたいことがあります。

参考書全体を通しても稀有なほど、本書は序文の「はじめに」が有益です
というより、初めて英作文なるものに取り組むのなら、
「はじめに」だけを読んで終わってもらっても問題ないくらいです。

 

【英作文に対する基本姿勢 - 5つのSTEP】

 

では本書の「はじめに」で強調されているのはどんなものなのでしょうか。
竹岡氏は英作文問題の日本語を見た際に抱くべき基本姿勢を0~4の、5つのSTEPで説明しています。

STEP-0 時制に注目し、仮想か現実かを識別する。

STEP-1 誰が誰に向かって話しているかを考える。

STEP-2 何が言いたいのかを考える。

STEP-3 使える部品を呼び出す。

STEP-4 組み合わせる。

 

STEP-0と1は書いてある通りの作業ですし、STEP-4は0-3までをまとまった文章にするということですから、STEP-2と3について補足しておきます。

 

STEP-2は「結局要約すると何が言いたいのか」を考えるということです。
例えば、自由貿易について書かれた文章を考えてみましょう。
その文章には自由貿易の定義や歴史、利点や問題点などについて書かれているとした際に、STEP-2に当てはめると、

自由貿易は利益となる」と言っているのか、はたまた「自由貿易が利益となるかは国ごとの状況に依存する」と言っているのか、もしくは利益は主題ではなく、「自由貿易は深刻な環境問題を引き起こす」と言っているのか、といった結論に相当する主張を抜き出す作業になります。
大学受験の英作文、特に英文和訳では、パラグラフ丸ごとといった長さの英作文をすることはめったにありませんので、「何が言いたいのかを考える」ことは文の骨格を考えることに等しくなります。

 

STEP-3は、皆さんが思っている"英作文"に相当する作業でしょう。
「この日本語なんて訳そう?」って考えるタイミングがここというわけです。
ですが、本書が強調する重要な点は「使える部品」をひねり出すということです。
提示されている例で言えば、「学生が素朴な質問をする」という文章をみなさんはどんな表現に訳しますか?


もちろん、「ネイティブらしいかは分からないけど、simpleでいいんじゃないかな」と思えた人は、既に英作文のコツが分かっている方だと思います。素晴らしい。
しかし、「素朴な」で頭を悩ませる人はそこそこいるのではないでしょうか。
もしくはしっかり勉強しているが故に、「I'm just curious.」(少し気になります)という表現を知っていて、混乱してしまうかもしれません。

 

このように、日本語を残さず訳そうとすると、しばしば混乱が引き起ります。
この点に関して竹岡氏は「無視しても問題のないレベルの情報」だときっぱり言っています。


このように、

自信のない表現は思い切って諦め、「使える」表現だけを引き出そう

というのがこのSTEPの意図になります。

 

さて、各STEPのより詳しい考え方は本書を読んだ時のお楽しみにしてもらうとして、本稿ではこのSTEPの順序の重要性を指摘したいと思います。

私見では、「英作文が苦手だ」と感じている方で、英作文の訓練をしたことがない方が直面している最大の問題点は次のことです。

設問の和文の中で、知っている単語や構文に飛びついてしまうこと、
すなわち、本書で言うSTEP-3から英作文を始めてしまうこと、が問題点になっていると思われます。

STEP-3から英作文に取り組んでしまうと、完成した英文はどうしてもいびつなものになりがちですし、時制や文章の主語述語関係をミスしやすくなってしまいます。

本書の「はじめに」はこのような課題を解決するための道筋としてSTEPを用意してくれる、有用な序文です。
加えて、「はじめに」では簡単な例題と共に、STEPの詳しい考え方を解説してくれていますので、その意味で序文だけでも価値のある本となっています。

【本書の特徴】

 

本書の例文はほとんどが日本語にして一文、多くても二文程度の短いものとなっています。
その意味で本書は、タイトルにもある通り、例文集としての役割が大きいと言えるでしょう。
では他の英作文の参考書と比べた時に、本書の特色は何でしょうか?


1.時制に関する解説が豊富


まず第一に、例題ごとの時制の説明が豊富です。

本書は、

 

 PART-1 時制 001~040

 

PART-2 論理 041~064

 

PART-3 文の組み立て 065~081

 

PART-4 その他の重要表現 082-100

 

から成っています。

PARTの横の数字は問題数を表しています。
このPART分けを見て分かるように、
一番多く例題を割いているのは時制に関する解説となっています
これは類書には見られない特色です。


普通の英作文の本なら、1、2項目でまとめられている内容を、40という豊富な例文で解説を行っています。
例えば例題の011は

011 僕の発言が彼女を傷つけるなんて思いもしなかった。

 

というものですが、時制の問題でつまずきやすい、「傷つける」という表現に関して第一に解説を加えてくれています。

このように、

「はじめに」で示されているSTEP-0の重要性を嫌でも学習させてくれる構成となっています。

 

2.見開きで見やすい構成


次に本書は、
例文一つに対して見開きの解説、という非常に見やすい構成になっています。
これは中々重要な点で、類書に見られる問題点としては、例文数が(入門として)多すぎたり、表などで重要表現を並べすぎていて、情報量が多くなりすぎているというものが多いです。
もちろん、それらの類書も良書はたくさんあるのですが、
こと英作文の入門書としては、
一冊をやりきる上で負担が少なく、過不足のない情報量を持っているという点で本書は揺るぎない立場を持っています。

 

また、本書は例文の日本語が左ページ、英訳例が右ページとなっているのも見逃せない点で、復習の際に非常に使いやすいものとなっています。

 

3.英訳例に難単語が使われていない


3つ目として、提示されている英訳例に難しい単語が使われていない、という点も高評価です。
学習が進んでいる方なら、ともすれば中学生までで見たことがあるであろう単語が半数以上を占めています

これは逆言えば、提示されいる日本語の例文がそもそも堅苦しくない、ということでもあります。

もちろん、英作文を勉強するうえでたくさん辞書を引く機会があれば、その分多くのことを学習できるとは思いますが、ともすれば負担が大きくなり、学習意欲を損なってしまう危険があります。

入門書として重要な、少ない負担で何回も復習出来る本、という条件から考えると、英訳例に対して辞書を引いたりする負担が少ないことは利点と言えるでしょう。


【本書の使い方】

では、本書はどのように使っていくのが良いのでしょうか。

当ブログでも強調したように、
まずは「はじめに」をしっかり熟読してください。
ここで英作文に対する取り組み方の基本姿勢を身につけましょう。

次に時制の項目は、一日一例文、といったようなペースを決めて計画的に取り組みましょう。

ここまでで、英作文の入門書としての重要な部分は七割消化したと言っても過言ではないと思います。

 

その上で、PART2以降の例文に取り組むのは少し待ちましょう。

例えば、PART2の「文の組み立て」は、「この表現を知っているかな?」という側面が強く、必ずしも本書で初めて学習するのが適しているとは言い難いです。

もし、文法・語法などの問題集を並行して行っているならそちらを優先し
本書に関してはPART1の復習を行いましょう。

 

その後、文法・語法の勉強が"復習"の段階に進んだあたりで、本書のPART2以降に取り組むと良いでしょう。

 

【総評】

本書は2005年に出版されていますが、それから英作文の参考書として一定の評価がついた2010年ごろでも、タイトルをはじめとした漫画とのコラボ性もあってか、イロモノ扱いを受けている場面に遭遇することも少なくはありませんでした。

しかしながら、本書はそんな「イロモノ」では決してなく、
例文集としても、英作文の入門書としても、時制の学習書としても優良なものとなっています。

 

再三の強調となりますが、まずは、書店で手に取ってもらい、「はじめに」だけでも読んでみてください。

きっと立ち読みだけではもったいない本だと気づいてもらえるはずです。

 

そして、本書を一通りやり終えた暁には、表題にも書いた
「ある状況に対して最低限ひとつの表現が必ずできるようにすること」
が出来るようになっているでしょう。

 

 

ドラゴン・イングリッシュ基本英文100

ドラゴン・イングリッシュ基本英文100

 

 

 

尚、本書のコラボ元である『ドラゴン桜』の続編に関しての記事も当ブログにありますので、そちらもよろしければご覧ください。

 

textbook-qna.hatenablog.com

 

文責:注b